1.馬井助ウキの思い出
馬井助ウキは、ハエウキとして有名です。特に「馬井助」の名を高めたのは2代目で京都在住でした。ケース、箱書き付きのものはヤフーオークションなどで驚くほどの高値で取引されています。
実は、私は数年間京都に住んでいたことがあり、馬井助を3本持っています。その内の2本は、古い釣具店で非売品でしたが「貴方なら譲っても良い」と言うことで譲って頂いたものです。結構な値段でした。30年ほど前のことです。
その頃はウキ作りに燃えていましたので、真似をして作ったものが今でも残っています。次の写真は、習作のごく一部です。
馬井助の特徴は、下部に使われている金箔と黒い上部です(カラスウキ)。当時は、群雲塗りを始めた頃で、「金箔の研ぎ出し」も群雲塗りの影響の強いものでした。
この際、今持っている技術で馬井助のコピーを作って、馬井助の塗りに興味を持っている人の参考にして頂こうと思った次第です。ウキは「唐辛子」型を主としました。蛍光塗料を使っているウキは、海釣りで使えたらと思っての助平心で、邪道です。
注:ここで言う「馬井助」は2代目馬井助のことです。初代馬井助は、家業の床屋の合間にウキを作っていて、作品数も少ないですし、技術的にも2代目馬井助に比べて劣っていたようです。
2.材料など
まず、桐の木材です。30年ほど前の材料が残っていました。当時、端材を貰ってきていました。軸は、竹の編み針を使います。馬井助は少し太い軸を使っていたようですので、1番を使います。桐の木にドリルで穴をあけ、木工用ボンドで接着します。
カッターで大まかな形を作っていた方が良いのですが、面倒ですので、そのまま旋盤に掛けます。竹軸をチャックで挟むだけでなく、出来るだけ桐の木もチャックに押し付けます。かなりの力が掛かりますので、出来るだけ竹軸に負担を掛けないためです。
それでも、何本かは、竹軸の所で捩れ切れました。
旋盤は、荒削りですし、端のところは削れません。そこで、ウキ作り用のモータで整形します。
まずカッターを当てます。固いです。中には、水を含ませて(柔らかくして)削ったものもあります。その後、水ペーパーを当てます。
固いのは、年輪の部分です。ペーパーを当てると、固い年輪の部分は余り削られずに、柔らかい部分が削られます。結果的に円形になりません。失敗です。手持ちの桐の木は乾燥し過ぎていたようです。
出来の悪い物は捨てて、新しく桐の木(板)を買ってきました。最近は桐の集製材が出回っていますので、楽です。接着部分を避けて、木取りします。そして、旋盤に掛けます。今度は、かなり楽に削れました。
足の部分は、ウキゴムに入り易いように尖らせて置きます。(馬井助は、竹の切ったままですが、使うことを考えて尖らせて置きます。)
3.塗り
カシュー漆の「透き」を3回塗り下地を作ります。最初は十分薄めて、桐の木に染み込ませる感じです。後の2回は普通に塗ります。当然、塗った後は、研ぎ出します。今回は、中央部分は下地が見えるように作ります。馬井助でよくある塗りです。
写真は順に、1回目の塗りの後の研ぎ出し後、その部分拡大です。これくらいの削り斑は許せる程度です。完成時には分からなくなります。
次の写真は、3回目の下地塗りです。私は、回転式の乾燥台を使っていますが、板に、ウキゴムを取り付けたものに挟んで乾燥させても良いです。その時は、適宜、上向き、下向きを交代します。
3回目の下地塗りの終わったウキとその部分拡大です。かなり綺麗になっています。さらに研ぎ出したウキです。
いよいよ、金箔に取り掛かります。金箔は下部1/3程度に入れる予定です。まず黒を塗ります。ウキを立てて見た時に横縞になるように黒を「斑」に塗るのです。折角、斑に塗ったのですから、先ほどの、ウキゴム式の乾燥台を使います。
「黒」を研ぎ出さずに、次のカシューを塗ります。折角、斑を作っているのですから「研ぎだしては駄目」です。今回は、「カシュー緑」に「カシュー黒」を混ぜ合わしたものを使いました。これが金箔の下になります。黒を混ぜると言うのは盲点のようでなかなか気が付きません。混合したカシューを、ウキを立てて見た時に、上から下に、何度も「の」の字を描くように塗ります。
これで、横縞模様の「黒」と「の」の字模様の「混合緑」の複雑な斑(型)ができました。
折角、下地で平坦に整えたウキに斑塗り(型を置く)を行うのは、塗りの世界では普通のことですが、初心者にとっては「発想の転換」です。
「混合緑カシュー」が乾燥してしまう前(今回は、1時間後ぐらい)に、「金箔」を置きます。置けば、勝手にくっ付きます。金箔は、次の写真のように金箔の無い部分があっても構いません。反って、その方が良いかも知れません。
金箔の下は乾燥し難いので、十分(数日程度)乾燥させます。
金箔の上に「黒」、中央に「透き」、上部に「黒」を塗ります。馬井助は足の部分には何も塗っていませんが、ここでは適当な時に、2回「本透明」を塗っておきます。
蛍光塗料を塗る予定のウキには、ウレタン塗料の「白」を塗っておきます。これも、馬井助なら「漆の白」を塗っていたでしょうが、蛍光塗料のウキは助平心ですからご容赦を。さらに、馬井助はトップの赤いウキは作っていますが、蛍光塗料は使っていません。
さあ、研ぎ出しです。ウキ作り用のモータのチャックにウキを咥えさせ、水ペーパーの400番で荒研ぎ出しをします。既に、仕掛けは仕込んでいますので、簡単に模様が出ます。
後、700番、1000番と水ペーパーを細かくし、手研ぎします。
ウキ作りを始めた頃、色々な色を塗り重ね「研ぎ出し」に挑戦していました。仕掛けのことなど知らずに、研ぎ出しのときに巧くやって、綺麗な模様が出るものと思っていました。いくらやっても、ボタボタとした模様しか出ず、ガッカリしたものです。
今回は、既に仕掛けが入っていますので、ウキをモータで回転させ、水を付けながら水ペーパーを当てると綺麗な模様が簡単に出るのを見て、隔世の感を強くしました。
金箔の模様が出ると、押さえに薄い「本透明」を塗ります。水ペーパーを当てた後、蛍光塗料を塗ります。蛍光塗料の間に黒を入れ、もう一度薄い「本透明」を塗ります。
研ぎ出した後、3箇所「赤」を入れます。今回は、手元に赤が無かったので、「朱」と「黒」を混ぜて使いました。
さあ、最後の「本透明」です。ごく薄い「本透明」を丁寧に塗って、十分乾燥させて完成です。
ここで、金箔の部分に何回カシューを塗っているか調べると、9回です。塗るとほぼ毎回研ぎ出しがありますから、工程は結構なものになります。
完